一般オタクがメイドカフェに行ってきた話

人生初のメイドカフェへ挑戦した。もともと友人に勧められた場所は、グランヴァニアだったが、なぜか閉まっていた。

f:id:VP_lenneth:20191019230158j:plain

グランヴァニア

辺りを見回してもあからさまなメイドカフェしかないので、自分のプライドとを天秤にかけて1時間ぐらい逡巡していた。最終的に選んだ店は、絶対領域A.D.2045。近未来を意識したメイドカフェだ。https://jp.akihabara-japan.com/experience/maid/3107/

よくあるキャバクラみたいな看板をしていたので一度はスルーしたけど、土産話を持って帰るため覚悟を決めて店へと入っていく。

f:id:VP_lenneth:20191019231206j:plain

アキバ絶対領域



ご主人様お一人ご来店です、とキャストに手招きされ奥の席へと導かれる。入るのに面接より緊張した。

お店の感想を一言で表すなら、ここは雀荘ですか?になる。当然ながら女性客はおらず、中年のおじさま、金髪のにいちゃん、常連っぽいオーラを持つ人、ゴーストライターが居そうな顔の人、会社に疲れて癒しを求めてそうな人。喫煙スペースも存在した。

店内に通され案内される。不思議な空間の説明がなされる。あ、はい、ご主人様です。僕の心中は穏やかではない。そんな僕の表情を察してかキャストが訪ねてくる。初夜を迎える女の子のように僕は返す。そんなに初々しかったか。文化祭の打ち上げをみんなで楽しんでねと言い残し、1人で帰るクラス委員は伊達じゃないな。

f:id:VP_lenneth:20191019232016j:plain

メニュー1

そんな僕が取り残されたままキャストからマニュアル通りの言葉が流れてくる。このお店は猫が人間に恩返ししたいことから開かれた、という設定だ。

f:id:VP_lenneth:20191019232322j:plain

メニュー2

メニューに書かれているのは猫語らしく、儀式をしないと読めないらしい。良いと言うまで目を瞑るように指示される。この空間で目を瞑るのに若干の不安を感じながら従う。逆の立場で女の子なら目隠しされるのとか怖すぎて逃げるなぁと思案していた。見知らぬ男に囲まれて目隠しされるとか恐怖そのものでしょ。

気がつくと、猫耳のカチューシャを付けられていた。てきぱきとキャストが説明をしていく。キャストと他のお客さんの写真はNG。触るとびっくりして猫に戻るらしいのでお触り厳禁。料理自体はOK。注文する時の呼び声はにゃんにゃんらしい。猫はすいませんが聞き取れないからね、仕方ないね。このお水はにゃんにゃん水ですか、そうですか。飲むたびに猫ちゃんになっちゃうんだにゃあ。キャストが離れ、気持ちを整理する時間ができた。緊張すると喉が乾く。ちなみにトイレはオス玉というらしい、耳を疑ったが2度目を聞くことは叶わなかった。ん、あれ、僕以外カチューシャしてなくないか。

f:id:VP_lenneth:20191019232952j:plain


人々はどうしてこういうのに行きたがるんだろう。身近な人間と、心が繋がるやりとりの方がもっと充足感が得られるのに。自分はキャバクラとか風俗とかが合わない人間だと確信する。物理的に得られる報酬は決して心まで届くことはしないのだ。そう、心が反応しない。紛い物に過ぎない。あ、ごめんなさい。にゃんにゃんはまだです。ちゃんと考えます。はぁ。……にゃあ。折角だからチェキがあるセットにしたいので、無難にオムライスを選択しセットの飲み物も選ぶ。

あ、先に飲み物のダージリンですか。美味しくなるように一緒にお呪い?せーの、もえもえきゅーん。ドキドキはしなかった。ただ自分がここに居ることへの違和感。彼女らから得られる接待が僕の中の違和感指数を跳ねあげていく。早く帰りたい。心が土器の如く風化していく。人々は一体ここで何を得ているんだ。

僕は人と話す時、特に女性とは、瞳孔を見ながら喋る癖がある。昔何かで読んだ、瞳孔の開き具合がその人への好意を表すバロメータだと見てからだろうか。きっかけはなんでも良い。キャストと話す時は瞳の奥を見透かすように見てみた。何も見通すことができないくらい真っ黒だった。カラコン入ってるんだろうね、当然だけど。瞳の模様とか個人的な性癖なんだけど、これは残念。ついでに目元は笑ってないなぁと場違いな感想を得る。

オムライスとその他が皿に乗ってやってきた。選択した後にケチャップで何かを描く段階があることに気付く。これは先程から推されている猫を指定することで、自分にもキャストにもダメージが無いようにした。突然名前を聞かれたので本名を答えてしまった。咄嗟に嘘をつけない自分が恨めしい。脳内会議が乱立する中、キャストが一緒にお呪いをかけましょ〜♡と誘ってくる。こういう場所って有無を言わせない圧があるよね、ただだだ従う。指でハートを描いた後、猫のような手をしてもえもえがおー。それライオンちゃう?

f:id:VP_lenneth:20191019234155j:plain

もえもえきゅーん

味の感想は…まぁ、食事に700円その他はサービス料って感じ。そもそも晩御飯代わりでくる客滅多にいないだろ。唐揚げはとても美味しい冷凍食品って味だった。特筆するようなものは無い。そういえばキャストは3人居て、切り盛りしているようだ。腰元のカバンの特徴からナシ、イチゴ、シナモンと名付ける。

キャストの服装だけど、衣装は意匠が凝っていて個人的には好きな服であった。プリムの代わりに猫耳、二の腕あたりでキュッと膨らむトップス、鳩尾辺りまで引き上げられ膝上30cmはあるスカート、そしてニーソックス。店名にもあるように、これが絶対領域かと感じられた。顔そのものについては僕はコメントができない。どんなに可愛い芸能人よりも身近で癒しのある子を可愛いと思ってしまう。だから、多分普通ぐらいとしか答えられない。あ、でも脚元は皆さんすらっとしててとても良いと思いました。

メイドカフェを名乗るだけあって事あるごとに、ごろごろタイム入りまーす!とか、ライブ入りましたー!とか、◯◯さんありがとーう♡もえもえきゅーん♡みたいなのが聞こえてくる。実質キャバクラな気がしてきたな。もちろん、それだけでなくて普通の会話も行われるし、自分も例外ではない。ナシがやってきた。

「どちらから、来られたんですか?」
「あ、京都です。ちょっと面接があったので東京までやってきました。」
「へー!すごいね、就活?夜行バスできたの?」
「そんなとこです。夜行バスで来て夜行バスで帰ります」
「大変だね!私も夜行バスで大阪まで行ったりするんだけど、首元とか痛くて寝られないもん〜」
おい、猫の設定どこいった。
「そうなんですね、しんどいですよね」
「そうなの〜」
「お店も結構大変じゃないですか、お店は長いんです?」
「いや〜私は7ヶ月で、イチゴと一緒の日に始めて、シナモンは半年ぐらいかな」
「案外短いんですね」
と世間話をしながらチェキの対象を選ぶ。ごめんね、君じゃなくて。気にしてないだろうけど。こういうのはっきり人気別れるのかなぁ。それと、僕はいつまでこのカチューシャつければ良いんですか、イチゴさん。

指名した人(シナモン)とチェキを撮って、ブログ掲載の許可も取り支払いへと駒を進める。シナモンがレシートを持ってくる。¥3350也。まぁ妥当な値段だよなぁ。1時間600円の席料金でワンドリンク制なわけだし。僕は接客へのサービス料より、料理技術へのサービス料にお金をかけたい気持ちで一杯になった。

f:id:VP_lenneth:20191020000249j:plain

チェキ

テレビの中にいるカスタムキャストっぽいキャラを眺めながら甘ったるいダージリンティーを飲み干した。接客態度からは彼女らの心情を読み取ることは出来なかったが、違う世界に生きる同じ人間なんだなと思った。一番好ましく思った瞬間は、あるキャストが無線で裏方と連絡を取るときで笑顔の仮面が外れた素の表情をした時。お金で買える笑顔より、集中した真剣な表情がいいよね。

僕がこういう場に不慣れなだけであって、好きな人は好きな場所だろうし、そこに生きる彼女らやお客を否定することはできない。どのお客さんもそれが当たり前のように、楽しく過ごしているからだ。メイドカフェに行くような人に言わせれば、事あるごとに構ってくれるキャストたちは良い子達に違いない。完全に理解を出来たわけではないが許容はできる。きっとそういうものだろう。

初めてのメイドカフェで3350円と、少しの気力を失った代わりに、こうした土産話を得た。階段を降りてすぐそこから鼻をくすぐるラーメン屋特有の香りが僕を現実へと引き戻すのだった。