異世界滞在記

前日譚
元々は4月に渡航して、8月から企業研修を行う予定だった。ちなみに今は10月でまだ日本にいる。他のインターン生も9月初旬には出発しているのに、アイルランド渡航の僕は労働許可が出ずに家でずっとお留守番。丁度その時期に内定式があったけど、その文言が、"Why are you here?" 自分が一番聞きたいが。渡航が遅れるたびに一握りの友人とご飯を食べたりしたが、何回送別会すんねんと言われる始末。自分でもそう思う。

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何でここにいるんですか?


当日
書類作業がこの上なく苦手だ。様々な手続きで差し戻しや忘れが発生する。こんな有様で、イギリスやアイルランド渡航前に必要と言われていた手続きを当日思い出す。申請しようとするも電話番号は既に休止しており、SMS認証が使えずドタバタした朝を過ごした。


空港で書類不十分による渡航不可の可能性があるため、気張りながら受付を済ませた。英と愛は日本の証明書で行けるという情報を目にはしていたが、果たして。
書類と睨めっこする受付の方。電話で呼んだ助っ人がさらに助けを呼び。総勢4名で厳しい顔になりながら囲んでいた時は駄目かと思った。何とかはなったが、返ってきた言葉には息を呑んだ。
「日本のワクチン証明書が有効になったのは今日からなんですよ」
普通に危なかった。

…父母祖母に見送られ地元を飛び立つ。見送りの声には、今までの積み重ねから滲み出る味があった。

 

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羽田空港に着いて目立つのが、暗さだった。もの寂しさを感じるが、これぐらいが丁度いい。自分だけの空間のようだった。独り占め出来ているという、少しの優越感。外貨を交換し、お金持ちごっこをしながら搭乗口へと向かった。

勿論、機内にも人はいない。1人で10席は使えそうだ。3つ並んだ座席を占有して寝る人も居た。自由に動けないのが苦痛なので嬉しかった。東京とイギリスの間は、エヴァンゲリオン序破Qシンを見ても時間が余った。

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中継のヒースロー空港に降りても依然として人が居なかった。のほほんとしていたら入国審査官に渡航前手続きのパスポート番号が異なっていると指摘が入る。何でミスるんですかねって詰められた。焦って何かをやると、失敗するので気をつけましょう。そのままダブリンに向けて出発。ちょっと寒い。


目的のダブリン空港に到着。愛で一番大きいそうだが、こぢんまりとしてる。すっかり暗く午後8時。普通に舐めてた、寒すぎる。たったかバス乗り場へと向かうがわからない。人に尋ねるが、全く聞き取れない。ジェスチャーから推測するに、5分ほど歩いた先に乗り場があるらしい。
這う這うの体でバスに乗車。運賃2€を請求されたので10€出したら、もう良いわって言われちゃった。電子マネーを持ってないと人権がないらしい。ホテルに着くや否や意識は夢へと旅立った。


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午前8時。コンビニに、控えめな荷物背負っていく。



辺りを散歩して過ごす。コンビニで必須カードであるリープカードと朝ごはんを買った。日本と勝手が違っていて、手間取った。チェックアウトまでの時間は、食料品店で品物の文化差を楽しんだ。鶏肉が丸々置いてあるのは驚いたし、肉類が塊で置いてある。一方ですぐに食べられるような既製品の類はあまり見られなかった。

さて、空港から次の4日を過ごすホテルに移動する…前に、お昼ご飯。徐々に慣れる為、黄色のMが目立つ店に入る。やはり店員の言葉が全く聞き取れない。コロナ関係らしく証明書を渡し入店。注文は全て電子操作だった。というかカウンターで口頭注文みたいなのが無いみたい。基本的な受け答えが出来ず悲しい気持ちになるも、なんとか注文を終えて、いただきます。いつもの味だった。水300mlが200円した。マジで?


バス。待つ間空を見る。綺麗。時刻表がない。
一面の緑。雲が近く、空が広い。
電車。年季の入った騒音。鳩が完全に人を舐めている。
車社会。日本と同様の座席、車道。コンビニとガソリンスタンドが併設。
現実感、無し。旅行というには現実的で、散歩というには遠すぎる。
金髪碧眼。やはりここは外国らしい。

 

渡愛してから幾日。
ステイ先候補と面談。ここ以外に探していないので、断る理由もなくそのまま契約。犬と戯れていた。可愛い。

 

インターン先と面談。
全てにおいてアウェーな気持ちで挑む。しかしながら話していく最中で、緊張はサンドイッチと共に消えていった。グッと飲んだ紅茶で舌をやけどした。生活をする上で国とか場所とかは瑣末な問題に過ぎなくて、共に過ごす人間が心地よいかどうかが重要だと感じた。
上司の英語が聞き取りやすいのもあるかもしれない。色々聞かれた。趣味がどうとか、彼女は居るのかとか、ここに友達いるのとか、家族構成とか。日本だとしっとりしてるのに対して、海外だとからっとしているように感じるのは何でだろう。他人に対する意識の違いから来るのだろうか。

優しくもインターン先からは1週間の猶予をいただいていたので残り数日を観光して過ごす。ダブリンで生活する上でバスを利用しない人はいない。バスに時刻表がないのが殆どなので携帯は必須。USBケーブルを挿せばどの席でも充電ができる。前述したリープカードは割引がある上に、どれだけ乗っても1日7€以上払うことはない。お得!

 

物乞編
唐突に2€ちょうだいって言われた。スタバ付近で道に迷っていたから、親切な人かと思って耳を傾けてしまった。どうやらバスに乗れないからお金を寄越せと言っているようだ。言葉がわからないことにして退く素振りをするが詰めてきた。まるで鳩のようだ。アジア人でチョロいと思われているのかもしれない。雰囲気に呑まれているのを感じながらも周囲を見ると、対処する方法があった。何せここはスタバなのだから。
近くで飲んでいた人に助けを求める。呑まれたなら他人の力を借りれば良い。助けてくれた人に許可を貰いつつその場から脱出。物乞いも付いてきていたので撒きつつ、再度戻ってからお礼を言って帰った。


観光地編
Irelandは海が綺麗だ。鼻につく塩の香りも強くなく、穏やかな気持ちにしてくれる。海のべたつく空気は嫌いだが、人間同様さらっとしているらしい。

Killiney Hill Park、海が綺麗だ。オベリスクがある。清々しい風が吹き抜ける。

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広い空。豊かな芝。



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緑、白、青。国旗そのもの。



Howth、海が綺麗だ。うみねこが鳴いている。海を感じる。時代を感じる建物もある。

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アイルランドの目と呼ばれている島

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Church of the Assumption




Dun Laoghaire Harbour、海が綺麗だ。夕日がとても綺麗。風が強くて寒かった。公共交通機関ではマスクが必須なので飛ばされないように(一敗)。

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滑らかな海の色



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コートが捲れるほど風が強い

 

治安編
ダブリンには訪れるべき場所が沢山ある。中でも有名なのがtemple barだ。この通りには多くのbarがあり、この状況下でも人が溢れかえっている。ヨーロッパの中で比較的安全といえど、軽犯罪が多発する場なので警戒は怠らない。そんな中、やたらと距離が近い若者を見つけた。老夫婦の背後にピッタリと付いている。どのように犯行を行うか気になったので、彼らを尾けていった。不審な動きが続いていく中で、ようやく分かった。彼は老夫婦の子供らしかった。見た目で判断するのは良くないね。
ダブリンより南東にあるブラックロックに居を構えた。体感する限り治安はとても良い。警戒していた物盗りとかも、車が通るばかりでそもそも人がいない。自転車もあまり見かけない。勿論、周囲に対して注意を払いながら過ごす。なお中心街に近づくにつれて治安は悪くなる。ホームレスが居たり落書きが多かったりドラッグをしていたり。

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ダブリン中心街

料理編
米とお箸と麺つゆがあると和食には困らない。みりんが300ml800円する場合もある。long grain riceを購入し後悔したのち、ようやく手にいれた日本米。海外では日本米のことをsushi riceというらしい。今まで炊飯器以外でご飯を炊いたことがなく、レシピを見ながら試行錯誤する日々。ある日教授が教えてくれる。
「電熱線のキッチンなら、最初から火力最大にして泡が出てきたら火を消す。これだけで良い」
幸いにもキッチンは電熱線式だった。一回で美味しいご飯が炊けた。2週間ぶりのお米だった。今まで米がどのように炊けるのかを気にしたことがなかったから、透明の蓋を通してご飯が炊ける様子を見るのは楽しかった。
これらを応用することで臨時に電子レンジでも炊けるようになったので、炊飯器はもう要らないかもしれない。
些細な会話から発見のきっかけを貰うことができてありがたい。

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sushi rice。2000円/10kg 安い

 

仕事開始
1週間が経ち、概ねの生活に慣れてきたところで仕事が始まる。内容は機械学習を用いて詐欺を検知するもの。犬と戯れて、パソコンのセットアップをしたら1日目が終わった。早二週間ほど経つが、仕事はとてもしやすい。幸いにも機械学習のプロがいるわけではないので、Qiitaのような”いかがでしたか?”レポートでも現状は何とかなっている。研究も並行しているから担当教員にも仕事の相談ができる。休学しなかったからこそ、こうして知識の架け橋が出来ているのは面白い。


国民性編
どちらかというとアイルランドの方が好きかもしれない。国民性を大きく感じたのは自転車で転けたときの話である。中古で買ってから2日目の朝だった。坂の起伏が多く息を切らしながら、男女共に悠々と追い抜かれながらも何とか漕いでいた。ようやく下り坂に差し掛かり息を整えていた時に、段差に気づかず盛大にスリップした。いつものように一人で痛みに呻きながら態勢を整えようとしていた。が、大丈夫かよ兄弟、とか、気をつけなよ、とか次々に声をかけてくれた。終いには車窓から顔を出して、盛大に転けたネェ大丈夫?と言う人まで。4,5人に声をかけられ自転車のチェーンを戻すのを手伝ってくれるなどありがたかった。自分も声かけを躊躇わずにしようと強く感じた。そのまま職場に向かうと上司が救急箱を取って色々用意してくれた。

 

終わりに
こちらに来てから数週間。正直なところ、海外を経験してから私は変わりました!のようなことは特になかった。自分は自分のままだった。
ただ、根本的な部分で人間は変わらないのかなと感じた。少しの国で語るのは烏滸がましいけれど。単純に環境や信条が違うだけなんだろうなと。物事を一元的に評価することに意味はなくて、一長一短でそれが好みかどうかだと思う。文化の摂取と表現すれば良いだろうか。もう少し時間が経てばより分かるかもしれないが、数週間過ごして感じたのはこれぐらい。一ヶ月弱の備忘録。

 

次回予告
文化の摂取。上役の娘編。まだ見ぬ観光地。牛乳ランキング。銀行口座開設編。